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巨大化する生物学研究

2014年06月16日 17:45

生物研究社会の矛盾 

Nature Rev. Mol. Cell Biology. 15, 423-425, (2014). に「The faces of Big Science 」というEssayが載った。 近年の生物科学の急速な肥大化で起って来た問題点について述べている。同じような問題に日本のScienceも直面している。エッセイの要点と感想を私見を交えて書いた。

1. Small Science からBig Scienceへ
50年前、アメリカのacademic scienceは非常に小規模で、規制も緩く、財政援助も乏しかった。しかし。今日では巨大化し、過剰なまでに官僚的、政治的コントロールを受けている。
例えば1965年当時、Ronは有名なRacker 教授の下でポスドクを2年送り、論文としてBBRC一報、BBA一報とあまり知られていないジャーナルに2報の論文を書き、名門Princeton 大学のtenure-trackのassistant professorの職を得た。この業績で職が得られるなんて、羨ましいかも知れないが、当時はこれが平均的なcarrier pathであった。現在ではそのような幸運は有り得べきもなく、そのような名門大学のポジションには100人以上もの応募が有り、少なくとも4年間のポスドクトレーニングを積み、一連の注目を集める分野の研究をして、インパクトファクターの高いジャーナルへの掲載が要求される。

日本でも全く事情は同じで、50年前では大体の人はドクターコースを終ると贅沢を言わなければどこか就職口が見つかった。

ではなぜ今日のような状態になったのであろうか? 50年前に比べ、今日、研究者は10倍以上に増えた。このような研究者人口の指数関数的増加が研究の質のみならず、世界経済にも大きな影響を与えるようになった。そして小さな規模のScienceから大規模Scienceへと変わって行き、Scienceは今や大きな産業と化し、様々な問題を生じ始めた。

2. 競争と査読
Peer review (査読)が危機に瀕している。Scienceには競争が必要だが、それが余りにも熾烈になり戦争状態にまで至っている。建設的な批判をするよりもしばしば意図的にその論文を抹殺しようとしている。また一流誌では多くの論文が査読に回る事もなく、rejectされてしまう。しかしそうした査読 でさえ論文の質や信頼性を確保するに十分ではない。現在、多くの研究者は必要の無い攻撃的で悪意に満ちたpeer reviewには我慢ならない状態にいる。論文を投稿した者なら誰でも経験する事だか、細かいことにケチをつけられたり、出来ないようなことを要求されたり、はたまた、もっと悪質なレフリー(競争相手?)はデータをはなから信用せず、そんな事はあり得ないと科学的ではないコメントをする。

3. Impact factorの一人歩き
 Impact factor が重要視されすぎ、様々な弊害を産んでいる。アメリカの細胞生物学会による研究評価の声明(Declaration On Research Assessment)で個人の論文の質の測定、個人の研究への貢献の評価、又は雇用や昇任やfundingの決定にimpact factor を使ってはならないと宣言したが、impact factor 重視の古い風潮はなかなか改善するのが難しい。日本においても、研究の評価の大きな基準としてImpact factorが使われる。評価者が論文を実際に読んで、自身の判断で研究を評価するというよりも、Impact factorの高いジャーナルへの掲載を研究の中身よりも重要視しがちで、ポジションや研究費の獲得の最大の武器となっている。

4. 男女格差
 性による格差も大き問題である。ごく最近まで、Scienceは男の世界であり、だれもそんな事は気にしなかった。しかし、最近ではgenderの問題は重大な問題として認識されるようになって来た。差別を防ぐ最良の方法は雇用を決定する委員の男女均等、科学会組織や、編集委員の男女均等、学会や賞を決定する委員の男女均等を測ること、つまり評価者の男女均等を測ることであろう。 日本でもgender問題は取り組まれているがなかなか進展しない。政府からも大学の教授達の30%は女性にするようにというお達しがあるが、そのレベルまでいかない。

 日本では不要な会議や委員会が多すぎ、それが5時以降に行なわれ事が多く、家庭を持っている女性は参加し難い。研究に際し、欧米のようにテクニシャン制度や秘書制度が確立していなく、なんでも自分でやらなければならない事が多く、時間が足りず、生き残るためには労働が深夜にまで及ぶ、など様々な理由が有る。しかし最大の理由は結婚した女性が働けるように社会のシステムが出来ていない。たとえば、託児所や保育所が十分整備されていないなど。日本で男女平等を成功させるまでには解決しなければならない問題がいくつもある。

5. 研究連合組織
生物学研究は一機関ではなかなか全ての領域をカバーするのは難しく連合体組織によって行なわれる必要が有る。そのような趣旨でEMBOが50年前に誕生した。EMBOは研究方向の決定、若者研究者の育成や研究費の支給などを国を越えた組織で運営し成功して来た。このような国を越えた組織がBig Scienceとなった生物学研究に必要であろう。
日本でも同じようにAsia全体を含む組織(AMBO)を作ろうとする動きがあったが、各国の主導権争いが激しく、設立には至って無い。純粋にBiology Scienceの研究所を作ろうとしてもお金がかかる以上、それを拠出する各国の政治的な駆け引きが行なわれ、妥協ができない以上設立は望めない。
日本はScience 規模の大きな国なのでまだいいかも知れないが、一国では対処しきれない発展途上国にはこのような組織は必要であろう。

6. 格差が広がる生物学研究
技術革新により生物学が様々な分野に応用されるようになると、大きな利益に結びつき、企業活動も活発になる。これからも益々、Biological Scienceは肥大化し、競争が激化しその成果が膨大な利益に結びつき、今までにあまり無かったような欲得感情が基礎生物学分野に持ち込まれることになった。その代表的な出来事がSTAP細胞騒動であろう。余りにも膨大な利益を産む可能性の卵に正常心を失ったというのがこの騒動の原因かもしれない。
 生物学研究が巨額な利益と結びつく打出の小槌となった今、これからも同じような問題が十分起こりえる。
 応用に結びつく日のあたる研究をしている研究者と応用性の低い基礎研究をしている研究者間の待遇の格差は今後益々広がって行き大きな問題になるであろう。
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江戸時代の科学のレベル(2)

2014年01月15日 18:11

浪速の天文学者
麻田剛立

江戸時代の日本の科学水準が世界でも一流だったということを前のブログで書いたが、これは国内から自然に湧き出るように科学を行なう人が増え、様々な領域で一流の研究者が輩出した結果だ。今回、それ程名前は知られていない?が、ケプラーの法則(第三法則)を独自に導き出した浪速の天文学者麻田剛立について調べた。

麻田は江戸時代の天文学者 (1734-1799)。豊後国杵築藩出身。幼い頃から天体に興味を持ち、傷寒論などを読み独学で医学、天文学を学んだ。初めての和暦を作った渋川春海は(1639-1715)であるので両者が出会う事はなかった。彼が活躍した時代は春海が亡くなり、元禄文化が終わった宝暦—天明文化の時期であった。

天文学への志やめ難く、38歳に突然杵築藩を脱藩し大坂に入った。その後は麻田剛立と名を変え、大阪本町4丁目で医を業としながら研究を続けた。
 剛立の学風は漢訳西洋天文書の『崇禎暦書』をベースとし、理論を実測で確認するという近代的なもので、西洋よりはるかに劣る機器や技術で、ケプラーの第三法則と同じ法則を独自に発見したといわれる(出典 麻田剛立『五星距地之奇法』)。
 ケプラーは1619年に惑星の運動に関する法則として第一法則(楕円軌道の法則)、第二法則(面積速度一定の法則)、第三法則(調和の法則)よりなるケプラーの法則を発表した。第三法則は惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例するというものである。公転周期の長さは楕円軌道の長半径のみに依存して決まることを意味する。楕円軌道の離心率に依存しないので、楕円軌道の長半径が同じであれば、円運動でも楕円運動でも周期は同じになる。この法則はニュートン力学で導くことができるのだそうだ。
しかし当時日本の天文学者がそうだったように麻田は惑星の軌道を円と認識し、「惑星軌道の半径の3乗と公転周期の2乗が比例する」と言う趣旨の記述をしており、正確に同じ法則を発見していたとは言えない。また一部には麻田の法則性発見に疑問をもつ科学史家もいるが、麻田が惑星軌道を楕円と認識せず、円と考えたうえで上記の法則を記述していたという“事実誤認”は、逆に麻田剛立の発見が彼独自のものであった可能性を強くしている。何れにしても麻田は全く閉鎖された社会で、観測事実に基づき独自に惑星の運動の法則を導き出した。
また麻田はオランダから輸入した初の高倍率グレゴリー式反射望遠鏡によって、日本最古の月面観測図を記した。8年後に起こる日食の情報を三浦に手紙で送った際、その月面観測図を併記した。この手紙は後年見つかり鹿毛敏夫がそれを題材に『月のえくぼを見た男』を書いている。アサダと命名された月のクレータは麻田に由来する。

  麻田は自分で集めたデータを基に、独自に法則を見いだし、考察を加えるという現在と同じ手法で研究をおこなっている。世界の情報から隔離された状態で、天体観測し、それを趣味のレベルに終わらせる事なく本(論文)として世に出した。
当時のヨーロッパではコペルニクス、ガリレオなる錚々たる学者が地動説なるものを唱え、すでに地球が太陽の周りを回転しているという事が分かり始め、天文学者の間で盛んに議論されていた頃である。隔離された遠い日本の地で、金もない一学者が、お金も名誉も地位も関係なく、捏造や改竄もなく、純粋に天文学が好きで、このような偉大な業績を成し遂げた事は見習うべきものがあると思う。研究の原点を見るような気がする。

 彼の下には多くの弟子が集まり「麻田学派」と呼ばれる一派が形成された。麻田は1799年65歳で没した。墓は浄春寺(大阪市天王寺区夕陽丘町)にある。彼の死後多くの弟子達、高橋至時・山片蟠桃・間重富らが活躍した。高橋至時は剛立の下に弟子入りし天文学、暦学を学んだ。丁度その頃西洋の天文学をまとめた最新の著書『暦象考成後編』を目にする。そこにはケプラーの唱えた楕円軌道が説明されていた。その理論を習得し、貧しい中、なけなしの金をはたいて望遠鏡を買い、天文学に熱中した。後に幕府の天文方となって寛政暦を作った。彼の業績はそこに留まらず多くの優秀な弟子を育てた、改暦のため江戸にいた時、伊能忠敬が弟子入りし、伊能忠敬に暦学、天文学を教え、文化元年(1804年)に死去した。享年41。遺体は上野の源空寺に葬られている。
伊能忠敬は至時の死後も測量を続け、日本全国の測量事業を完了させた。忠敬はその後の文政元年(1818年)、測量後の地図作成作業の途中で亡くなった。遺言で忠敬は、師である至時のそばに葬ってほしいとの言葉を残したため、源空寺に、至時と隣り合って墓石が置かれている。

麻田によって産まれた麻田学派なるものが、時代を経て、身分を越えて、継承され、高橋至時や伊能忠敬など優秀な人材を輩出し、江戸時代の天文学、暦学、測量学の発展に大きく寄与した。

研究者のモラル

2013年08月08日 18:28

研究者のデータ捏造、不正経理

昨年はデータの捏造やデータの使い回しなどの不正が明らかになり注目を集めた。その最たるものは東大分生研の加藤教授らによる改ざんや捏造事件で、東京大の調査委員会が、分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授のグループが発表した論文を、過去16年さかのぼって調べた結果を発表した。
英科学誌ネイチャーなどに掲載された論文の実験結果を示す画像に改ざんや捏造が認められ、43本については「撤回が妥当」、10本については「訂正が可能」と指摘されたという。改ざんが認められた画像について、加藤元教授は作成に直接関わっていないが、「重大な責任を負うべき」と結論づけた。

今年になって、社会への影響力が大きく、日本の医薬行政の信頼を完全に失墜しかねない薬の有効性を判定する臨床研究で捏造が発覚した。薬が効いたかの様にデータを改ざん捏造が行なわれたが、それも異なった大学2カ所での同じ薬剤、ノバルティスファーマの開発した高血圧治療薬「バルサルタン」の効果の捏造で、明らかに人為的だと思われる。
まず最初に明るみにでたのは京都府立医大の松原弘明元教授(56)らが行った臨床研究についてで、府立医大はデータに問題がなかったかを検証し、論文に使われた解析データが人為的に操作され、バルサルタンに有利な結果が出ていたとの調査結果を発表した。調査では、臨床研究で対象にした約3千件の症例のうち223件のカルテを確認。論文のもとになったデータと比較したところ、カルテに記載がなかった病気が論文データでは存在するなどの不一致が34件あった。バルサルタンを使った場合、他の降圧剤に比べ脳疾患や心臓病のリスクが減ると結論付けられていたが、正しいデータを使った検証ではこうした結果は得られなかったという。

もう一方の不正が行なわれた慈恵医大では望月正武教授を責任者として研究がなされ、高血圧患者約3000人を、バルサルタン服用の約1500人と別の降圧剤服用の約1500人とに分けて、経過を比較。「バルサルタンには他の降圧剤と比べ脳卒中を40%、狭心症を65%減らす効果があった」などと結論付け、07年に一流英医学誌ランセットで発表した。調査では発症数をごまかした形跡はなかったが、ディオバンの有効性を導くための基礎的なデータとなる患者の血圧値について、大学の保有データと論文に使われた671人分のデータに86件(12・8%)の不一致がみられた。研究に参加した医師が大学保有データ以外を書き換えることは不可能だったことから、元社員が解析用データを意図的に操作した疑いが強いと結論づけた。

降圧剤バルサルタンに血圧を下げる以外の効果もあるとした臨床試験疑惑で、東京慈恵会医大の調査委員会は7月30日記者会見し、「データが人為的に操作されており、論文の撤回」を決めた」とする中間報告を発表した。販売元の製薬会社ノバルティスファーマの社員(5月に退職)が統計解析していたと認定し、「本人は否定するが、元社員がデータ操作をしたと強く疑われる」と指摘した。また京都府立医大の臨床研究にも同じ社員が関与しており、開発販売元の会社に勤めている社員が所属を伏せて関与していた点は極めて人為的である。また京都府立医大があたかも自分たちは被害者の様に、ノバルティスファーマ社の社員が一方的に捏造したと、病院へのノバルティスファーマ社の出入りを禁じたのもおかしな話である。論文は松原弘明元教授の責任のもと出され、重大な責任は学校側にも存在する。同じ事が慈恵医大のケースにも当てはまる。共同研究者や研究責任者は全く研究を把握し、議論すらしていなかったということか。こんな大掛かりで根本的なデータの捏造を見過ごしていた責任者の責任は大きい。多額の寄付金を製薬会社からもらった見返りに薬の効果をでっち上げるなどと言う事は決して行なってはいけない事など誰でも分かる。

薬の効果判定がいい加減に行なわれていた事は、薬事行政への信頼の失墜と、何を信じて良いか分からない患者の不安など社会に与えた影響は計り知れない。ノバルティスファーマ社は、慈恵医大と既にデータ操作が判明した京都府立医大の論文(既に撤回)を使って大々的に薬を宣伝し、売り上げが1000億を越えている。しかし、その科学的な根拠は事実上消滅した。日本の医薬研究史上、類を見ない不祥事となった。製薬会社と医師の癒着が起こる誘惑は両者側に充分存在する。でも決してその線を越えては行けないことなど研究者なら最低自覚してなければならない。

研究結果の捏造や改ざんのみでなく、研究費の不正使用も目立つ。まずは京大薬学の辻本教授による収賄事件。
東京地検特捜部は昨年7月、収賄容疑で、京都大学大学院薬学研究科元教授、辻本豪三被告(60)=公判中=を逮捕。辻本被告は、物品納入に便宜を図った謝礼と知りながら、平成19~23年、飲食代金や海外旅行の費用計約643万円を業者側に負担させたとされる。

 辻本被告はゲノム(全遺伝情報)創薬科学の第一人者。贈賄側の業者は、辻本被告の京大への転籍に合わせて、京都事務所を立ち上げるなど、長年近い関係にあった。「接待攻勢は日常茶飯事。自社のクレジットカードを渡して『自由に使ってくれ』と言われていた。

更に、最近TVや新聞紙上をにぎわしているのは東大政策ビジョン研究セ ンター教授、秋山昌範による詐欺事件で、この件については余りにもお粗末としかいいようがない。本人が積極的に研究費をだまし取ろうとしたとしか考えられない。こんなことまで研究者がするようになったのか?全くモラルの欠片も無い。

東京地検特捜部は7月25日、国の研究費約2 100万円をだまし 取ったとして、東京大 学政策ビジョン研究セ ンター教授、秋山昌範 容疑者(55)を詐欺 容疑で逮捕した。逮捕容疑は、201 0年3月~11年9月の間、システム販売会社 など6社の役員ら6人と共謀。自身が関わる国 の研究事業を巡り、データベースの作成業務などを6社が受注したように装い、国から東大に 支給された研究費を6社に振り込ませ、計約1 890万円をだまし取ったとしている。10年 2月には、共同研究をしていた別の教授が在籍 する岡山大に支給された研究費についても、同 様の手口で約290万円をだまし取ったとされ る。関係者によると、各社はデータベースの作成や調査業務などを受注したが、これらの業務を秋山容疑者の親族が取締役を務める東京都内のコンサルティング会社にさらに外注。受け取った研究費約2180万円の多くを委託費として同社に支払っていたという。特捜部は各社が受けた業務は架空だったとしている。

基礎論文の捏造改竄に始まり、更には製薬企業との癒着により、高額の寄付金を得る代わりに、臨床データの改ざんで薬が効いたかの様に見せかけるという悪質なものとなった。一方、相変わらず研究助成金の不正流用が行なわれ、それを私的な事へと使うという不正が一挙に積極的に助成金をだまし取ろうという詐欺へとこれまた悪質さがましている。
こうして見ると研究者に求められるモラルの低下が起こっているのであろうか?特に薬の効果判定が信用なら無いとなると生命にも関係し、日本のデータは信用ならないと欧米で日本の開発した薬が使ってもらえない状態にもなりかねない。そうなれば医薬産業を発展させて行こうという日本の意図をもくだしかねない。モラルの低下は社会の風潮ではあるが、今までは何も言われなくとも個人のモラルの意識で何をやってはいけないのかが分かっていた。それが日本の、親切で、信頼をうらぎらない、安心のできる心地よい社会であった。それが次第に薄れ、欧米と同じ、ぎすぎすした、行き過ぎた個人主義的な社会となって、モラルなどいっておれない社会になってしまったとしたら哀しい。

研究者にとって、大切な事は事実をありのままに書き、それに基づいて議論し、けして捏造や改ざんはしないこと、また助成金の使用にあたっては使い勝手が悪くても、決められたルールは守るというのが最低のモラルである。


日本は研究の不正行為に対しての処分が甘い?

2013年04月11日 17:56

Natureが「日本は研究の不正行為に対して追求が甘い」ことを糾弾

4月の4日のNature のThis Weekという項の編集欄に名指しで日本の科学研究の不正や誤った指導ついて原因をきちんと調査し正すようにとの論説が載った。A record made to be broken. Nature 496, 5 (2013)

科学的不正行為に関して、東京大学分子生物研究所の加藤茂明教授らのグループによるデータ捏造事件が昨年大きな関心事になった。この際,問題になったのはデータの使い回し、でいくつもの論文に同じデータが使われた。一方このNatureが取り上げているのは東北大学総長だったBig scienceのリーダー井上明久教授グループの研究指導とその実験結果だ。

日本での大型研究費の主な研究費配分機関(JST)は不正のない正直な研究者を選んで研究費を支給してきたが、それとも不正に対する証拠を見つけられなかったかだ。JSTによれば1957年に始まり、昨年は87.8億円配分した、研究費支給において不正がおこなわれたケースは調査上では皆無であると報告している。

一方、米国のNIHでは年間12例かその程度の不正が報告されている。また、日本でも近年目立った不正が立て続けに起こっている。麻酔学者のFujii Yoshitaka氏は個人として最も多く論文を撤回していて、JSTの報告するクリーンなレコードとは合わない。

長期間続いている不正な研究の場合はより深刻だ。前東北大学学長のInoue Akihisa氏は数年に渡って不正な研究を指揮したとして責め立てられている。しかし井上氏がmisconductに関与したという証拠は無い。本人もデータを操作した事はないと言っている。彼はよりしなやかでより壊れにくい材料である金属ガラスの分野の世界のリーダーの一人で、2500以上の論文を出版している。以前、彼はNatureの問いに対し他の研究者は単純にスキルが無いか彼の研究室での結果を再現できるだけの経験が無いのだろうと言っていた。 

JSTはその事態を調査する必要がある。井上氏に関する疑問は6年前くらいから不特定の警鐘を鳴らす人々から挙げられ、20年程前にさかのぼった研究から言われている。多くの複雑な人間のからみがある。Zhang Tao氏は数本の論文において井上氏と共同著者だが、作り上げた金属ガラスとドキュメントは中国に帰る際、入れていたコンテナが海に落ちて失った、と言っている。
2007年に東北大学により設置されたmisconductがあったかどうかを決める委員会は、以前井上氏により昇格された人々で主に構成されていた。そしてその委員会の結論は科学的不正に関しては調査の必要なしであった。しかし論文には一連の訂正がなされた。

昨年、JSTにより別の委員会が設立され再度調査された。井上氏は1997年から始まった5年のプロジェクトで1.5億円の補助を得て、その間に問題のある論文が数報出ているが、misconductの証拠は見つけられなかったが、より精密な検査が相当だと報告した。そこで昨年の春、JSTは公式に大学に再度調査を依頼した。12ヶ月経っても、大学もJSTも調査がおこなわれたことを確認できなかった。調査に期限は切られていないが、もし東北大学が対応しないのなら、JSTは再び依頼する以外動きようが無い。大学はもしそれがmisconductだと分かればお金を返さなくてはならないので、調査の困難さに加えて、利益相反にも相当するようになる。何もしなければなんの結果も産まれない。未だ何も結果がでていない。JSTはきちんと対処する姿勢を取らなければ、組織の信用性を揺るがすことになる。

ここに出てくる藤井善隆氏は2012年2月に告発された当時東邦大学医学部麻酔科の准教授である。
日本麻酔科学会は、澄川耕二・長崎大学教授を委員長とする「藤井善隆氏論文調査特別委員会」を設け、藤井の業績とされる249本の論文のうち、1990年から2011年に発表された212本を検証した。委員会は、藤井の論文の共著者たちや藤井に研究に関わってきた様々な人々にも聞き取りを行なった。委員たちは実験ノート、患者の記録、その他、藤井の研究の生データの入手と点検も試みた。2012年6月29日、委員会は合わせて172本の論文にデータの捏造があったと報告した。このうち、126本については、「まったくの捏造」であったと結論づけられた。報告書は「即ちあたかも小説を書くごとく、研究アイデアを机上で論文として作成したものである」と述べている.

一方、井上明久氏は2006年から2012年間東北大学総長とかくかくたる経歴の持ち主で、金属ガラスをはじめとする高機能な非平衡物質の精製方法を開拓しその産業化に指導的役割を果たした業績や、論文の総被引用数が1981年以降で1万4000回を超え、材料科学分野で世界最高水準にあることなどが評価され、2006年12月の日本学士院の第2部(自然科学部門)第5分科(工学)の会員に選定された。
しかし井上氏は一部の論文に関して二重投稿やその他の不正行為の疑いを受けた。2007年5月、井上氏の実験結果の一部に再現性がないと主張する匿名の告発文が文部科学省に送付され、同省は東北大学に調査を求めた。東北大学は理事の庄子哲雄を長とする委員会を設置して調査を行い、再現性があることを確認した。2009年に日野秀逸、大村泉らが実験結果の捏造の可能性を指摘したが、検討にあたった東北大学の外部委員らは不正を疑うべき根拠がないと回答し、井上は2010年7月までに名誉毀損で大村らを提訴し大村らは反訴した。2011年6月、井上氏がApplied Physics Letters誌に投稿した論文が二重投稿にあたるとして同誌から取り下げられた。それを含む井上氏を著者・共著者とする計7報が、二重投稿だったとして2012年までに取り下げられた。これらの二重投稿について調査するため東北大学は2010年12月に有馬朗人を長とする調査委員会を設置した。同委員会は2012年1月の報告書で二重投稿の事実を認めて井上氏に反省を求め、井上氏はこれに従った。御園生誠を長とする科学技術振興機構の調査委員会は不適切な二重投稿の存在を認めた一方で、同機構が助成した「井上過冷金属プロジェクト」の成果の主要な部分には影響しないと2012年3月に報告した。井上氏はデータの捏造については2011年までに否定し、二重投稿については事故や共著者との行き違いが原因だったと2012年に説明した。井上氏の複数の論文に渡る同一資料写真の不自然な使い回しなどに関して科学技術振興機構が2012年までに調査を求めていたのに応じて、東北大学が調査委員会の設置を決めたことが2013年3月に報じられた。まだ最終的な結論が出ていないが不正が行なわれたことは否めない。

Natureが主張するには疑惑が持ち上がった以上徹底的に調査し、その結果を公表して、黒であれば断固たる処分を下す事を求めている。日本社会は臭い物には蓋をの精神で、曖昧な結論にしてしまい,責任を取らない事が多い。研究においては責任者や実験遂行者がはっきりしている。その場合でも曖昧な結論を出す傾向にあるのだから、責任者が曖昧な管理体制での原発事故の様な大惨事でもだれも責任を取らないのは当然であろう。

SONYとApple

2012年01月26日 19:04

昨日の覇者は今日の敗者

戦国時代、駿河の大国(今川義元)は、弱小だと侮っていた尾張の小国(織田信長)に油断をつかれて桶狭間で討ち死に。昨日まで弱小であった国が, 下克上、群雄割拠の時代、あっという間に、並みいる列強を押しのけ、勝者に躍り出る。反対に、権勢,栄華に酔いしれている、暗愚な君主をいだく、国はたちまち滅びさる。
今日の企業間の戦いもまさに戦国時代。今までの安定した平和な日本では、大きな会社の社長は部下からの意見を吸い上げ、人間関係の調和を保ち、調整型の何もしない、どちらかというと無能な官僚型人間が良かった。最も典型的なのは東京電力を筆頭とする電力会社。特別な事をしなくとも、組織は動き、企業の規模の大きさと官僚や政治家への影響力が重要であった。しかし今日の乱世では、大企業が安定と言える訳でなく、大小入り乱れての群雄割拠。有能で将来が見通せ、早い決断の出来る経営者が嘱望される時代となった。画期的な発明が次々になされ、その技術革新について行かないとどんな大きな会社でもあっという間の転落の憂き目が待っている。
一つの革新的な発明が会社の運命を変えてしまう。革命的な技術を開発した又はその開発の波に乗れた企業は、大企業へと成長し、反対に開発の波に乗り遅れた企業は、沈没していく。一つの発明が大きく会社の運命を変える恐い時代になった。その典型としてアップルとSONYをあげよう。

 次々と革新的な発明をしてパソコン、音楽、通信機器の覇者と成ったアップル。一方、チャンスを物にしながらも開発の波に乗れなかったゼロックスやSONY。最大のフイルムメカーであったコダックが破産した事は耳に新しい。デイジタルカメラの重要性を過小評価し、あっという間の転落。それも世界で最初にデイジタルカメラを開発したのがコダックだというのだから驚き。何故コダックはデイジタルカメラの開発に積極的にならなかったのか?大きな理由は、デイジタルカメラを開発すると自社の主力製品であるフイルムが売れなくなるということらしい。その点、富士フイルムはフイルムの需要減を見越して、デイジタルカメラの開発を急ぎ、フイルム製造工程での技術を生かして、化粧品や医薬品へと多角化し、見事にフイルムメーカーから脱却した。

SONYは何故iPodのような携帯音楽プレイヤーを開発できなかったのか? Steve Jobsの伝記にはこんな記述がある。
2001年、ジョブズはアップルを変革し、同時にテクノロジー業界全体さえも変革しようとする壮大な構想を打ち出す。パーソナルコンピューターは脇役などにはならない。音楽プレーヤーからビデオレコーダー、カメラにいたる、様々な機器を連携させる「デジタルハブ」になるーーとした。あらゆる機器をコンピューターにつないで同期する。そうすれば音楽も、写真も動画も情報も一元的に管理できる。そしてiPod, iPhone, iPadという革命的製品が開発される。 そしてiTuneによる音楽配信とiPodという携帯音楽プレイヤーはあっという間に、音楽事業での巨人に上り詰める。

なぜSONYにはできなかったのか?その頃、ユニバーサルミュージックのトップ であるダグ、モリスは海賊版の横行にうんざりしていた。新たな音楽配信や携帯プレーヤーの開発をSONYと続けていたが、成果は全く上がっていなかった。
「どうしてSONYがだめだったのか、私には全く理解できません。史上有数の失策でしょう」とユニバーサル傘下のレーベル、インタースコープ ゲフィンA&Mのイオヴァインは今でも首をかしげる。「アップルの場合、社内で協力しない部門は首がとびます。でもSONYは社内で部門同士が争っていました」実際、SONYはいろいろな意味でアップルの逆だった。かっこういい製品を作る消費者家電部門もあれば、人気アーチストを抱える音楽部門もあった。しかし、各部門が自分たちの利益を守ろうとするため、会社全体でエンドツウエンド サービスを作れずにいた。

SONY ミュージックの社長に成ったアンデー ラックが初めて出席したSONYの新年度年頭訓辞は2003年4月、アップルがiTune ストアーを発表した週に行なわれた。訓辞に集まった200人のマネジャーを前にiPodをポケットから取り出す。 「これだ」CEOの出井伸之や北米SONYのトップハワード ストリンガーも見ている前で宣言する。「これがウオークマンキラーだ」怪しげなところなどどこにもない。こういうものが作れるように、SONYは音楽業界を買ったんだ。君たちならもっといいものが作れる」
しかしSONYにはできなかた。ウオークマンでポータブル音楽プレイヤーの世界を拓いた実績もあれば、すばらしいレコード会社を傘下に持っている。美しい消費者家電を作って来た長い歴史もある。ハードウエア、ソフトウエア、機器、コンテンツ販売を統合するというジョブズの戦略に対抗するために必要なものは全てそろっているのに、なぜ、SONYは失敗したのだろう。
SONYは部門ごとの独立採算制を採用していた。これでは部門間の連携で相乗効果を産むのは難しい。それと、SONYは共食いを心配していた。デジタル化した楽曲を簡単に共有できる音楽プレイヤーと音楽サービスを作ると、レコード部門の売り上げにマイナスの影響がでるのではないかと心配したのだ。これに対してジョブズは「共食いを恐れるな」を事業の基本原則にしていた。「自分で自分を喰わなければ誰かに喰われるだけだからね」
ウオークマンを発明し、ポータブルオーデオ市場最大のプレイヤーであったSONYはこうしてアップルに完敗する。

SONYという大帝国の凋落は、会社(国家)の繁栄よりも自分たち(利益者団体)の利益を守ろうとする保守、官僚的な経営の下に始まった。「大帝国の欠点は国も会社も同じだ。現状を変えたがらない。今自分の持っている利益を離したくない」だ。誰もが国(会社)を改革してよくしようと言う総論には賛成、しかし自分たちが不利益を少しでもかぶるのには反対、自分達以外が我慢しろだ。これでは国も会社も凋落の一途をたどる。民主党も自民党も労働組合も農協も医師会も皆自分たちの利益ばかりをいい続ける。どのようにしたら、大企業体質から抜け出せ、いつも新鮮に、挑戦的にJobsのいうStay hungry Stay foolishでいられるのであろうか?

長年同じ組織で研究をしていると歳を取るに従い、組織の硬直化とマンネリにおちいる。研究も自転車操業に惰性化する。7年から10年で組織を変え、環境を変えた方がよりStay hungry Stay foolishが実戦できるような気がする。


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