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絶滅に瀕しているSmall Science

2012年10月29日 19:00

Big Scienceの隆盛とSmall Scienceの凋落

Science誌のchief editorのBruce Alberts によるThe end of small science?という記事があった。(Science 337, 1583, 2012 by Bruce Alberts)
彼がこの記事を書こうと思ったのは今月だけで30に及ぶ論文がENCODE Project Consortiumから出されたことによるという。
これは442人の国際チームから構成され、ここ数十年に渡る長い研究による結果からDNA elementsの百科事典と言われるヒトゲノムの機能要素の網羅的リストを編集したもの。この詳細な俯瞰は生命、健康、病気の基礎研究に拍車をかけた。エンコデは正にBig Scienceの典型で重要な研究テーマを席巻しつづけるであろうし、データ生産効率は驚異的に高い。

これは生物学研究のSmall Science の時代の終焉を意味するのであろうか? その答えはNoであると期待したい。
Human Genome Projectの輝かしい成功は2004年に30億以上のDNAの核酸配列がほぼ完成した事で、ピークを迎えた。そしてproteomics, transcriptomics, epigenomics やmetabolomicsなどのomics projectを誘発した。これらのBig Scienceの発展は価値ある新たな方法論を発達させたが、同時に各々の研究のスケールの増大を引き起こした。しかもそのスケールでの研究は常に行なわれ続け、一旦走り出せばダメと分かった時点でもストップさせる事は難しい。

現在の厳しい財政状況下、どのようなプロジェクトがサポートに相応しいのか決めるのは困難である。何をやるべきなのか?5年ごとに改訂されるcell biologyのtext bookの著者として、私は非常に単純な細胞の理解に於いても大きなギャップがある事を知っている。
例えば大腸菌について考えてみよう。大腸菌は分子生物学の初期では主要なモデル生物であるが、ゲノムがコードする4000タンパク質の4分の一のタンパク質の機能は分かっていない。
2番目の例として、ヒトの細胞はおおよそ10000のタンパク質を含み、それらが何百もの異なった複合体に組織され、タンパク質マシンとして機能している。生物学を意味あるものにし理解する事で健康上の利益を得るためには、まだまだ生化学者によってそのタンパク質マシンを詳細に研究する必要がある。それらの仕事は典型的な小さな研究室でなされる。
最後に、細胞のもっとも興味深い性質はemergent propertyである。それはタンパク質マシンを含む多くの異なった分子間の相互作用の巧妙なネットワークから生じる。現在この複雑性を解読する能力は無い。多くの仕事は大腸菌のような比較的単純な系でのsmall scienceを通してなされる必要がある。
毎年、研究者が取得する細胞に関する情報は増加し、omics projectにより非常に早いスピードで膨張している。しかし生命科学の深い理解を得るという真のチャレンジには詳細なカタログ作成を越え、その先に行く必要がある。生命システムの複雑さを理解する努力をしている革新的な小さな研究室の重要な仕事の財政的援助をするため、また将来の生物科学の成功を確実にするには大型のセンターやomics-like projectの増加を抑制する必要がある。

正に日本でも同じ事が起こっている。大型の研究プロジェクトとしてゲノム、プロテオーム、ケミカルバイオロジーやはたまたノーベル賞によってさらにその勢いに拍車をかけたiPS研究や再生医療にまとまった金が投入されている。それはそれでいいのだけど、基礎科学への予算は別にして欲しい。大型プロジェクトへ予算が割かれると結局、残りのパイは益々少なくなり、大勢の研究者がその小さいパイに群がるようになる。
そのような大型予算とは別に、個人個人が自由に小さな研究室で行なうSmall Science研究への予算を残して欲しい。そうしなければ予想不可能な巧妙な生命の謎に迫る新たな概念を打ち立て、新しい領域を切り拓く事は難しくなるであろう。
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赤ワインのanti-aging物質、Resveratrolって効くの?

2012年10月11日 18:29

anti-aging ポリフェノール、Resveratrol

赤ワインに含まれるanti-agingの物質として富みに有名。Resveratrolの錠剤が売り出され、健康食品のブームになっている。Resveratorolを飲んでいれば健康で,長生きできるとの宣伝がTVなどでなされているが、どこまで事実であろうか?現在までに分かっている事を調べてみた。

Resveratrol(3,5,4-trihydroxy-trans-stilbene)は天然に産するフェーノールで様々な動物や人への効果が現在トピックとなっている。しかし多くのモデル動物での延命効果は確定していない。マウスやラットの実験ではがんの発症率の低下、抗炎症効果、血糖値低下作用や心臓への効果が示されている。しかし人において効果は全体的にpositiveではあるが弱い。

Resveratrolはぶどうの皮や他の果実から見つけられた。赤ワイン中のresveratrolは少なく、0.1-14.3 mg/lの濃度である。また化学合成によっても作られる。
サプリとして売られているがこれは主にJapanese knotweedから採られる。
Knotweedとは日本名イタドリまたはスカンポで、古来より生薬として食されている植物で川縁などによく見られる。
Resveratrolの寿命延長作用は2003年にHowitz and SinclairによってNatureに発表された。その結果によればResveratrolは酵母の寿命を明らかに伸ばす。そして線虫やショウジョウバエの寿命も延長した。
2007年になって他のグループも線虫やショウジョウバエの寿命延長効果を認めたが、他方、違うグループはその効果を認めなかったという。その後紆余曲折があり、結論として「年老いたマウスへの全体的な効果は良好であったが寿命延長効果は弱かった」と報告された。そして、最終的にNational Institute on Aging (NIA)が投与量を3種類に変えて実験をし、延命効果は認められなかったと判定した。
結論として言えるのは「延命効果は認められなかったものの様々ながんの予防効果は認められた、しかし経口投与での効果は弱かった。」

また赤ワインを飲むフランス人は心疾患が少ないとの定説からResveratrolの心疾患抑制効果が調べられた。Resveratrolの心疾患抑制効果の多くはDipak K. Dasの研究で証明されて来たが、彼が多くの論文を捏造していたこともあって、データの信憑性が疑われていた。Dipak K. Dasはコネチカット大学ヘルスセンターの心血管研究センターの外科の教授でResveratrolの効果の研究では著名であった。500報に及ぶ論文を書いているがそのうちの117報がResveratrolについてであったが、非常に多くの彼の書いた論文で捏造や不正が発見され、現在大学を解雇される手続きが進んでいるという。赤ワイン研究データ捏造者として有名になっている。
彼は多くの捏造データを作成し発表したが、心筋梗塞のモデル実験で赤ワインと同じく抑制効果がある事は確認されている。Resveratrolは動物実験で糖尿病抑制効果、抗炎症効果や神経変性抑制効果なども報告されている。

作用機序

この項は少し難しいかもしれないが我慢の程を。
カロリー制限によって生じる生化学的な変化の多くをResveratrolの投与で再現できる。ResveratrolはSirtuin 1 (SIRT1)やPGC-1αを活性化してミトコンドリアの機能や代謝を改善する。SIRT1は長寿遺伝子とも言われ、NAD-依存性の脱アセチル化酵素で代謝に重要な転写因子のPGC-1α やFOXO3αを脱アセチル化して活性化するためResveratrolが寿命を伸ばすのではないかと一躍脚光を浴びた。しかしResveratrolは直接SIRT1を活性化しない。
ResveratrolはMnSOD (SOD2)を14倍活性化し、過酸化物を減少させる。その作用機序はResveratrolにより SIRT1/ NAD+が活性化され、FOXO3αを脱アセチル化するとその転写活性が上がり、 MnSODの発現が強く促されることによる。

Resveratrolは直接SIRT1の活性化は出来ないと言われていたが、SIRT1活性化に至るシグナル伝達がごく最近のCell(148, 421-433, 2012)の論文で明らかとなった。Resveratorolはphosphodiesterase (PDE)を阻害しcAMPを上昇させ、その結果シグナルがEpac1/CaMKKβ/AMPK/SIRT1活性化に繋がりPGC-1αを活性化してミトコンドリアの機能を改善する。

結論

現在分かっていることはResveratrolは寿命を延ばす効果はないものの、がん抑制効果、新血管系改善効果やアルツハイマー病などの神経変性疾患などを予防するなどの効果が動物実験で認められている。しかしその効果は弱いのと吸収が悪いため経口では効きにくいという欠点がある。更に強いSIRT1活性化薬剤の開発が多くの製薬会社で現在試みられている。
参考総説:Resveratrol as a calorie restriction mimetic: therapeutic implication (Trends in Cell Biol. 22, 546-554, 2012)


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