スポンサーサイト

--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

環境と感受性

2009年06月17日 12:40

幻の光


この宮本輝の小説は人生に大きな大きな影響を与えた。この本を読んで無性になみだがとどめなく流れ、せつなかった。哀しかった。人の世の不条理が心に焼き付いた。

「きのう、わたしは32歳になりました。兵庫県の尼崎から、この奥能登の曾々木という海辺の町に嫁いできて丸3年が過ぎたから、あんたと死に別れて、かれこれ7年にもなるんです」という書き出しで始まる。

「どん底の貧乏生活の幼少期を過ごした尼崎の阪神国道沿いの木造アパートに小学校6年のときあんたが後添いの連れ子として引っ越ししてきた。私はそのとき以来頭がよく、格好いいあんたが好きになった」
お互いに中学校をでると働きはじめ、あんたは鉄工所の見習い工員になった。二人は大人になるのを待って結婚し、初めての子供を産んで3ヶ月後に、わたしは理由も判らん自殺というかたちであんたを喪ったんでした。それ以来、もぬけの殻になって生きてきた。幸せの絶頂期、なんであんたは自殺したんやろ。その理由はいったいなんやろとわたしは呆けた頭で考えに考えてーーそれでも分からなかった。
なんの理由も見つからぬ自殺という形で、愛するものを喪った地団駄をふむような悔しさとわびしさ。

まわりの人の勧めで子連れで人のいい子持ちの板前と再婚して能登の片田舎で幸福な生活をおくれるようになった彼女に、今なお前夫への思慕が噴きあがることがある。なんでこんな理由も分からぬ不条理な不幸が自分の身の上に降り掛かるのだろうか。考えれば考える程,分からない。この絶望感と寂寞感。
そんななか、夫やまわりの人々の優しさに次第に新しい人生をがんばろうと思う様に次第になる。この小説の希望は幻かもしれないが光が差し込みそうな将来を予感させて終わることだ。

この小説を読んだ時ほどショックを受けたことはない。涙が次から次へと溢れ、人生の哀しさ、不条理、明日知れぬ運命が心に刻み込まれた。何故これほど哀しいのか理由もなく、ただ哀しかった。この小説が性格形成、思想形成に大きな影響を与えたことは間違いない。

しかしまたずーと後になって読み返した時にはそれ程のショックは受けなかった。小説を読む「歳やおかれた環境とそのときの精神状態」によって全く受けとる印象が異なる。昔感激した映画を期待してもう一度見たけどそれほどではなかった。逆に昔は何にも感じなかったが、今度見たときはすごく感激した。という事は往々にしてある。人間はその時々の環境に左右されて、価値観も変わる。優しくなったり、冷たくなったり、寛容になったり、厳しくなったりして生きている。
しかし未だに最初に読んだ時のショックは忘れない。


スポンサーサイト


最近の記事


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。