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インパクトファクターから研究の潮流を読む

2009年07月04日 13:40

インパクトファクター

今年も恒例の研究専門誌のImpact factor (2008) の発表があった。昨年と傾向に変わりはなく生物分野(臨床医学を除く)のトップグループをNatureとCellの姉妹紙が独占している。Nature, CellとScienceはいつもながら上位に位置し、Nature (31.434), Cell (31.253), Science (28.103)である。 Natureの姉妹紙は軒並み高くNat Genet (30.259)を筆頭にNat Med (28.103), Nat Immunol (25.113), Nat Material (23.132), Nature Biotech (22.297), Nat Cell Biol (17.774), Nat Neurosci (14.164), Nature Method (13.651), Nat Struct Biol (10.987)とImpact factor 10以上にNatureを含め10誌を数える。一方のCellの姉妹紙はCancer Cell (24.962), Immunity (20.579), Cell Metabo (16.107), Neuron (14.17), Mol Cell (12.903), Dev Cell (12.882), Curr Biol (10.773)とCellを含め8誌に及ぶ。Nature やCell出版社以外のジャーナルでImpact factor 10 以上はJ Exp Med (15.219), Circulation(14.595), Gene Dev (13.623), Plos Biol (12.903), Blood (10.432), Genome Res (10.176) とAm J Human Genet (10.176)くらいなものである。完全にNatureやCell 誌の戦略勝ちである。これらのジャーナルは商業誌であるのに対しScienceは学会誌のために幅広くジャーナルを出すという事ができないというジレンマを抱えている。実際ScienceのEditorはそうこぼしていた。

Natureを出版しているNature Publishing Groupはどん欲で今やNatureという名前がつくジャーナルを20誌出版し、review誌を14出版している。またその領域も生命科学を初めとし、医学、物理、化学、テクノロジー、地球、環境とありとあらゆる方面に及んでいる。Review誌も軒並み高いImpact factorを持ち、Nat Rev Mol Cell Biolの35.423を筆頭に上位を占めている。そのため昔からあったTrendやCurrent Opinion誌などのreview誌はその立場を蹴落とされている格好だ。

昔からあった学会誌や専門誌の凋落ぶりはもっとひどい。PNAS (9.38), J Cell Biol (9.12), Embo J (8.295)。これらは数年前まで10以上のImpact factorを誇っていた。MCB は5.94, JBCに至ってはまさに長期低落で今や 5.52である。

もう一つの傾向は生化学や分子生物学と名をうったジャーナルが敬遠され、がんのような病気を扱った基礎医学誌が軒並みImpact factorを上げている。昔はJBCより低かったCancer Res (7.514)やOncogene(7.216)は今やはるかに上位を走っている。

Impact factorの傾向は世の中の研究傾向を映している。一昔前までは生化学や分子生物学が若者を引きつけ、華やかに脚光を浴びて来た。いまや生化学は古い学問のように思われ、敬遠されている。実際生化学会の会員は年々減少しつづけている。日本では分子生物はまだ頂点を維持しているが、諸外国では完全に機能を扱った細胞生物学や神経科学などにその座を明け渡している。学校での新しい研究室の名も生化学とか分子生物とか言った一般名がつく事はなくなり、より具体的に発生、形態形成とか再生、神経などといった名前が多くなって来た。もう一つの潮流はNat BiotechやNat Methodで象徴されるように新しい技術の開発が注目をあつめていることであろう。

これらのことから時代の流れを読み取る事ができる。研究も人がやることであり、多くが税金を使ってやるということから研究の流行という潮流から逃れる事はできない。研究費の投入もポジションも潮流にのった船にだけに与えられるからである。昔は全く潮流から外れ、漂流していても毎年支給される固定のある程度の額の予算がきた。今はその予算も削られ、潮流に乗れない船の船員は餓死を待つしかない。Impact factorを裏読みすると実に現在の研究のトレンドがうかがわれる。

これから何を学ぶかであるが、航海図の整った流域の潮流にのって、リッチなしかし大勢の中の一員としての研究生活を送るか、難破船となってでも潮流から外れて、新たな航海をして新大陸を見つけるか、それとも餓死するかの冒険の旅に出るのを選択するのは、若者の特権である。
へそ曲がりのおじさんとしては今一度ボロ筏に乗って新たな地を目指して冒険をしてみたい。大きな浪にのまれてしまう可能性は高いが。

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