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無惨な楠

2010年04月07日 17:32

 いつまでも寒い風が吹き、咲きかけた桜は雨に打たれて寒々しく震え、蕾を堅く閉ざしてしまった。そんな折、日本を5日間留守にして帰って来ると、前の日迄小雪が舞ったという神戸にも、一気に暖かな春の穏やかな風が吹き、耐えていた桜は一斉に待ちかねた様に開花し、いまや満開。ああもう4月だ。入学式や入社式。新人達が真新しいスーツに着飾って、希望と不安で胸を一杯にする季節。静の冬から動の春へ。全ての生物が活動を始める時。花咲き鳥歌う春、命の躍動する春。

春の雨上がりの朝。久しぶりに神戸駅から楠の坂道を歩いてきた。湊川神社の塀の中の楠は萌葱色の若葉を茂らせすっかりと春の装いに衣替えしていた。しかし坂道に沿って植えてある楠の木は見るも無惨に枝葉が切られ、丸裸。冬に枝を剪定して、樹々の負担を軽くするというのはよくやられる事は知っているが、こうも大きな枝まで切り落とす事はない。楠達がその痛手から立ち直り、若葉を繁茂させるには随分の月日が必要であろう。これでは楠の精霊も閉じ込められて、春の新しい生命を謳歌し乱舞する事もできない。

三月は忙しくあっという間に過ぎてしまった。ふと気づくともう4月。慌ただしく生活を送っていると周りが見えない。自然の移り変わりに目をやる余裕が無い。そんな忙しい研究生活を続け、やっとこのところ心に余裕というか、あきらめというかが出て来て、自然の移り変わりに目をやるようになってきた。

「心ここにあらざれば、
視れども見えず、
聴けども聞こえず、
食らえどもその味を知らず」

 そうすると今まで見えなかった四季によって刻々と変わる山の端の色づきをじっくり眺められるようになってきた。いまの神戸の山は萌葱色というか浅葱色というかの黄緑に覆われている。でもこの色はたちまち緑となり、濃い苔色へと変わっていく。この時期、山の所々に霞がかかったように白いピンクがかった樹があるのが見られる。多分桜の花であろうと想像はつくが、遠くからでは定かでない。山のあちこちの新緑の黄緑の中に、薄紅が浮かび上がっている様はのどかな春を象徴している。心の緩む春の到来である。

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