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カロリー制限は寿命を延ばすか?

2012年09月10日 18:08

寿命

安らかな眠を妨げる蝉の鳴き声もめっきり減って、朝の静けさが戻って来た。もうそこまで秋がやってきている。
蝉の一生は7年間の地中生活を経てやっと地上に這い出たかと思ったら、1週間で命は終わる。やっと地上に出てきた蝉が短い命を謳歌して泣き叫ぶ、そう考えると、うるささにも少しは我慢できる。
マウスの寿命は2−3年で、犬は20年足らず。人の寿命は最大120年だと言われている。昔より、どのようにして寿命が決まっているのか、またどうしたら老化を防げるのかは人類にとって、最大の関心事の一つであった。秦の始皇帝は方士(道士)の徐福に命じて東海の島(日本)に不老不死の薬を探させたと言われる。

最近の研究により、老化を抑制する確実な方法はカロリー制限をすることと言われて来た、また多くのそれを裏ずける論文が発表されている。しかしそれらの研究の大半は寿命の短い、線虫やマウスのデータから結論づけられていたため、この結論は長生きをする霊長類の猿や人間にもあてはまるのかというのが最大の疑問となっていた。

最新のNatureに載った猿のカロリー制限の結果によればどうもこの予想は当てはまらないらしい。この論文が載った号のnews and focusに「Calorie restriction falters in the long run. -- Genetics and healthy diets matter more for longevity--, 488, 569, 2012」という解説記事が出された。それを要約すると。

 食べる事の好きな美食家にとって、このニュースはほっとする出来事かもしれない。つまり極端なカロリー制限は霊長類では寿命を延ばさないということだ。
コントロールより30%食事を減らしたRhesus monkeyでの25年に渡る研究の結果は「単純な食事制限によって入るシグナルスイッチが老化をおくらせる」という考えを振り出しに戻した。Natureに発表された結果は「遺伝と食事内容が単なるカロリー制限以上重要である」事を示唆した。

Louisiana State Universityの老化研究者のDon Ingramは単なるカロリーの減少は広範な様々な変化を生じると言っている。彼は30年前にBethesdaの老化研究所(National Institute on Aging, NIA)でこの研究を始めた人物である。NIAで猿での研究が発足した時、寿命の短い生物でのカロリー制限の研究がヒントになっていた。実験では線虫での絶食は寿命を伸ばすことを示していた。他の実験でも、少量の食事を与えられたラットは禿げてよたよたしている兄弟よりもつやつやと若くて元気がよかった。また、最近の分子的な研究によればカロリー制限やそれを代償できる化合物は「老化を遅らせる効果を持つ一連の遺伝子の発現の変化」を引き起こすことが示唆されている。

1989年MadisonのWisconsin National Primate Res Center (WNPRC)で始まった実験では、カロリー制限は猿の寿命を延ばすと結論され、その結果は2009年に発表された。その実験によれば、ダイエットグループでは13%が老化に関係する原因で死んだが、コントロールグループでは37%もが亡くなった。
その違いの理由は今になってみれば、多分WNPRC猿は不健康な食事を与えられ、カロリー制限した猿はそれを少量しか食べなくてすんだので単に健康そうに見えたのであろうと考えられる。WNPRC猿の餌は28.5%のsucroseを含んでいるのに、NIAの餌は3.9%しか含んでいない。その代わり、NIAの食事は魚の油や抗酸化剤を含み、WNPRCの食事にはそれらは含まれていない。WNPRCの老化研究者であるRick Weindruchは結果として、我々の餌は健康的ではなかったのだろうと認めている。

更に、WNPRCのコントロールグループはより多くの餌を、制限されていなかったので、食べた。一方、NIAの猿は決められた量の餌を与えられていた。大人になった時WNPRCの猿の体重はNIAの猿より重かった。多分、WNPRCの結果は不健康なコントロールグループを反映しているのかもしれない。

この研究が始められた当時、「基本概念はカロリーはカロリー」であった。しかし、Ingramは「今は猿が食べたカロリーの種類が明確な差を生じているのではないかと考えている」と述べた。
マウスでカロリー制限の効果を研究している研究者達はstrain間の遺伝子の多様性によって生じる多様な結果を経験している。同様、遺伝学が猿の研究でのばらつきを多分説明してくれるであろう。NIAの猿はインドや中国の猿の子孫であり、Wisconsinの猿は全てインド由来である。このようにカロリー制限の分子的効果は複雑である事が分かる。

研究者は赤ワイン中に見つけられたanti-agingの期待の星であるresveratrolのような化合物を使って、カロリー制限で引き起こすのと同じ効果を得ようとする。つまりカロリー制限のような辛い事をしなくても、resveratrolを飲んでいれば老化防止(延命効果がある)になるという事だ(ごく最近のCellのPaperによればresveratrolはPDE 4を阻害し、cAMPを上昇させ、CamKの活性化、AMPKの活性化を介して抗老化遺伝子産物である脱アセチル酵素のSirt1を活性化,その結果PGC-1aを脱アセチル化してMitochondriaの機能を亢進すると言う。赤ワインの効果についてはそのうち書きたい)しかし、単一の遺伝子や蛋白質を標的にする事で老化を遅らせようとする希望は消え去ってしまったようだ。研究者は動物によって老化の主要経路は異なる事を学んだ。BostonのHarvard Medical School の 遺伝学者David Sinclairは長寿ネットワークを選別するのに更にまた10年はかかるであろうとも言っている。

人において、カロリー制限が老化を遅らせるという証拠は未だ無い。肉眼的所見では中程度の体重の人が長生きであるという。New York のAlbert Einstein College of Medicineの老化研究家のNir Barzilaiは百歳以上生きた人を研究した結果、「遺伝子が食事や生活環境よりも大切だ」と信じるようになったと言っている。長寿の年よりはぽっちゃりとした一団だ。

時折Lousianaのエビのごちそうを楽しむIngramは少しニュアンスの違う絵を画いている。そしてどのような食事がカロリー摂取より寿命に影響を与えるかの研究を待ち望んでいる。人の寿命は本当に決まっているのか?と彼は問う。
参考 Mattison JA, et. al. Impact of caloric restriction on health and survival in rhesus monkeys from the NIA study: Nature published online 29 August (2012)
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