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恋文

2008年10月18日 14:39

恋文

連城三紀彦が直木賞をもらった小説。映像的な風景描写もミステリアスさもない。連城三紀彦の短編にはこのような、日常ありふれた生活の中で、頼りない、落ちこぼれ気味の男がただただ優しくて、日常でないことを扱った小説がある。頼られたことへの義理と優しさを追求し、現実にはありえない? 小説としては、ほんのりほのかな明るい気持ちになる非現実を扱った作品。

郷子は婦人雑誌者に勤め、編集者として活躍しているキャリアーウーマン。夫の将一は子供をひきずったまま大人になったような、中学校の美術の先生。一人っ子の優は妙にしっかりした小学4年生。結婚10年のありふれた日常のある日。
「ぼくのお父さんにそのラブレターが届いたのは春休みに入ったつぎのつぎの日でした。お母さんが仕事でるすのときで、お父さんはめずらしくマジメな顔で読んでいましたが、ぼくがのぞきこむと大あわてでかくしてしまいました。ぼくもその手紙を読んだのでだいたいわかるのですが、その女の人はお父さんが結婚する前につきあっていた恋人で、最近難しい名前の病気になり、いのちがあと半年しかないとわかって、かなしくなって10年ぶりに学校へお父さんを訪ねていったのです。そのときお父さんは女の人にまだ結婚していないとウソいったようです。そうして死ぬまで自分がいっしょにくらしてせわをしてやるといったようです。手紙に、女のひとは、あなたがそういってくれたので本当にうれしかった。いろいろかんがえたけどあなたの言う通りにしたいとかいていました。お父さんはお母さんとぼくをすててその女の人のアパートへ行ったのです。そのラブレターが届く前に、お父さんはもう家出する決心だったみたいです」という優の相談の手紙が偶然郷子の勤める出版社に届く。

「あんた本当にあの女に惚れてるんでしょうね。同情とかそんなことで、たとえ半年でも私たちを棄てたのなら、私、いやだから」将一は「ほれてるよ」ぼさっと答えた。「だったらいいわ」
「学校に未練ないの?ないね、俺、今の方が多少ましなものをうっているもの十年前から魚売ってりゃよかったよ」「ほんとよ。そうしてくれてたら私も結婚せずに済んだ」おれが教師だったから結婚したわけ?」郷子は正直に肯いた。そして郷子がふりむくのを待って呟いた。「別れてくれないかな」
あいつ10日後にまた手術受けることになった。君も気づいていたかもしれないけどこの頃、夜中なんか闇の中で見るとぼおっと雪みたいにしろいんだ。俺きちんとしたいんだよ。形だけ式あげるなんて。あいつ可哀想だよ」「死んでいく人にはきちんとして、生きてく私や子供にはきちんとしなくてもいいっていうの」結婚式は手術の3日前におこなわれた。式といっても病院の地階にある食堂を借り、医師と看護婦、それに患者仲間が集まるだけの簡素なもの。
「俺ラブレター貰った」「馬鹿ね。離婚届けじゃないの。あんたの分の印鑑もおしといたから」
2週間後。病室に飛び込んだ時目にした窓の向こうの入道雲は短い間に形を崩し、花火の余韻に似た筋を青空にひいていた。一人の死の傍らに、いつもと変わりなく、風は流れ、風鈴は鳴り、カーテンは揺れていた。
「戻ってきてくれるわね」将一は黙って首をふった。分かってた。鎌倉に行った時から、あんたが、江律子さんが死んでも家へは戻ってこないつもりだったこと」 でも私、あんなラブレター書いたじゃない。あんな凄いラブレターもらって心動かさなかったら、最低の男だわ」その言葉とともに、それまで忘れていた涙が目に溢れた。

現実ははドロドロの愛憎が入り交じり、なんともいやな結末になるのだが、小説の世界ではさらっとながしてストーリーを展開できるところが、難しいテーマを扱っているのに、ほのぼのとした気分になる所以か?登場人物の心の襞の微妙な動きが織りなすあやの描き方は連城三紀彦特有のなんともいえずうまい文章。優しさと,自己中心的な考えと、見栄っ張りと、義理と人情とがごっちゃになったようなストーリー。
「恋文は離婚届」という結末にこの小説のうまい落としどころがある。

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コメント

  1. くりくり | URL | -

    郷子さんのせつなさ

    「せつない」、実にせつないですね。
    何がって、郷子という人の夫に対する思いがです。

    ぺんぺん様が紹介してくださった、このお話のあら筋、それのみで語っておりますので、もしかしたら大きく曲解してしまっているかもしれません。ぺんぺん様がいわんとされているところとも、かなりズレているのかもしれません。

    けれど、この郷子という女性の女の意地というか、心意気といいますか、私には、それのみが胸にせまってまいります。

    誠に愛するということは、相手を自由にしてあげるということなのですよ、きっと。
    本当に、強い人ですね。

    で、それで、あんなラブレターを渡したわけですか…。それほど愛が深かったというわけですよね。

    ああ、やっぱりせつない。

    とにかくまあ、一度読んでみます。まずは、そこからですね。
    失礼しました!

    ところで、


    ”病室に飛び込んだ時目にした窓の向こうの入道雲は短い間に形を崩し、花火の余韻に似た筋を青空にひいていた。一人の死の傍らに、いつもと変わりなく、風は流れ、風鈴は鳴り、カーテンは揺れていた。”

    ここのところ、しみじみとした余韻がなんとも素晴らしいですね。とても美しい文章だと思いました。




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