スポンサーサイト

--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

大腸ガンの特効薬にビタミン C?

2015年11月17日 12:25

ポーリングの予言が当たっていた?

Vitamin Cといえば化学結合やたんぱく質の構造解明で1954年にノーベル化学賞をもらったLinus Paulingが思い出される。また核実験反対を唱え1962年のノーベル平和賞も受賞している。
ポーリングは後年、vitamin Cの研究を行い、様々な病気に効くというvitamin C万能説を唱え、風邪にも癌にも効くと報告していた。

しかし1970年終わりから1080年初頭にかけてMayo Clinicで錠剤投与(経口投与)による癌の大規模な臨床試験が行われた。その結果、効果が認められなかったことから、急速にvitamin C フィーバーは冷めていった。

しかしごく最近、vitamin Cの大量投与が大腸がんに効果があるとの動物実験での結果が出され、その理論的根拠も明らかにされた。
Jihye Yunは数年前にJohns Hopkins大学の大学院生であった時に、KRAS や BRAF (Ras familyのガン遺伝子)の変異で起こさせた大腸がんはGLUT1 というグルコースを輸送するたんぱく質の発現が亢進していることを発見した(Science 18, p1555, 2009)。GLUT1はグルコースだけではなくvitamin Cの酸化型であるdehydroascorbic acid (DHA)も細胞内へと輸送する。

そのYunが今度はLewis Cantley (PI 3-kinaseの発見者)研究室のポスドクとなり、vitamin CがKRASやBRAFの変異で癌化している大腸がんに効くという論文を出した。ちょっと医学、生物学に馴染みのない人には難しいかもしれないがその論文を紹介しよう。
Jihye Yun, Lewis C. Cantley, et.al.
「Vitamin C selectively kills KRAS and BRAF mutant colorectal cancer cells by targeting GAPDH」Science Reports 5 November 2015 on line
(解説:Vitamin C could target some common cancers, Science, 350, 619, 2015)

KRASやBRAFは人の大腸ガンで各々40 % 及び50%のが変異見られる最大のがん遺伝子である。BRAFはKRASの直接のターゲットとして下流のMAP kinaseを活性化し細胞増殖作用を起こすことがすでにわかっている。
KRASやBRAFの変異した大腸がんではグルコースを輸送するGLUT1が上昇しており、グルコースの取り込みが増加していた。Vitamin Cはsodium vitamin C cotranspoter (SVCTs)によって細胞内へと運ばれるが、酸化されたvitamin Cのdehydroascorbate (DAH)はGLUT1によって細胞内へと運ばれる。細胞内へ入ったDHAはglutathione (GSH), thioredoxin, NADPHを使ってvitamin Cへと還元される。
実際、KRASやBRAFの変異した大腸がん細胞でのvitamin Cの取り込みは明らかに上昇していて、vitamin Cによりがん細胞の増殖やcolony formationは著しく阻害された。その際、生理的なグルコース濃度(5-10 mM)の条件下で、10 mMのvitamin Cで十分な効果が得られたという。
しかしGLUT1を過剰発現させてもvitamin Cの取り込みは増すが、vitamin Cへのsensitivityは増さないことから、vitamin Cはoncogeneによって引き起こされる代謝変化に関わる酵素のどれかに効いているのであろうと推察された。
次に、実際にマウスで大腸がんへの効果を調べた。Vitamin CはKRASやBRAF変異で生じた大腸がんには著明な効果があったが、その他の原因で生じた大腸がんには効かなかった。
では「どうしてvitamin CがKRASやBRAF変異を持つがんに選択的に毒性を示すのか」という作用機序を明らかにするためメタボローム解析をした。
Vitamin Cで処置していない変異細胞では解糖系やペントース経路の代謝産物が増加したが、vitamin C投与でglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)より上流の代謝産物が蓄積し、下流の産物が減っていた。このことはvitamin CでGAPDHが阻害されていることを示す。
  DHAの取り込みでGSHやNADPHが減少し、細胞内の活性酸素 (ROS)が上昇し、そのtargetのGAPDHの代謝変化を生じる。実際、vitamin C 投与でKRAS 及びBRAF変異がん細胞でGAPDH活性は50%抑制されていた。

  結論として、KRASやBRAF変異のあるがん細胞ではvitamin C-induced ROSの上昇が起こり、GAPDHを阻害して、エネルギークライシスを引き起こし、細胞を死滅させると考えられた。
しかし問題はvitamin Cは経口投与では血中濃度が10mMに達するのは困難で、注射による投与が必要になる。このことが初期に行われた臨床試験で全く効かなかった原因かもしれない。
今後、大腸がんやKRASやBRAFの変異が起こっている他のがんへの大量投与による臨床試験が行われる予定である。
「火のないところに煙は立たぬ」と言うが、vitamin C 説もあながち嘘ではなかったことになる。

夢のやせ薬の末路

2015年09月28日 12:18

  運動しなくても痩せる薬。

  運動や寒さによって骨格筋から血中に放出され、白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に転換する遺伝子を活性化させる
「irisin,イリシン」というホルモンが2年前にHarvard 大学のスピーゲルマン教授らによって発見された。
 『A PGC1α-dependent myokine that drives browning of white fat and thermogenesis』 Nature 481, 463–468 (2012)

発見当初は夢のやせ薬として、激しい運動をしなくても同じような効果が得られる「運動ホルモン」ともてはやされ、夢の薬の出現として多くのベンチャーも飛びついたが、今ではその効果や存在そのものまで疑われ、ベンチャーキャピタルも撤退した。
白色脂肪細胞が、余剰エネルギーの貯蔵庫であるのに対し、褐色脂肪細胞は、脱共役蛋白(uncoupling protein-1, UCP-1)を介してエネルギーを消費し、熱を産生する機能を有する。イリシンは、白色脂肪細胞の膜表面にあるレセプターと結合することにより白色脂胞の UCP-1を活性化し、褐色化 (ベージュ脂肪細胞)を誘導するという働きを有している。運動によってイリシンの前駆体であるFNDC 5 (fibronectin type III domain containing 5) 蛋白質の発現を高めることで、血中へのイリシン分泌が増加し、脂肪細胞におけるUCP-1の mRNA 発現量が亢進し、同時に酸素消費量も上昇して、体重の減少、インスリン抵抗性の改善がみられると言う.
 イリシンの産生は、運動によって増加するPGC-1α (peroxisome proliferator receptor γ coactivator-1α)依存的に行われる。よって、運動によってPGC-1αが上昇し、イリシンの産生が高まり、血中へと放出され,白色脂肪細胞に働いて褐色脂肪細胞に変えるということになる。
実際、マウスに3週間の自由なでの滑車運動を行った結果、イリシン分泌量は65%上昇し、人でも10日間の持久性運動により、イリシン分泌量が2倍増加したという。
 
  これまでの実験結果ではギリシャ神話の虹の女神イリスに因んで名付けられたホルモンのイリシンが、運動の筋活動に伴って脂肪組織に移動し、脂肪を貯蔵するのではなくエネルギーとして燃焼するように働きかけるとされていた。また、これらの発見によって、イリシンが肥満や糖尿病に対抗する重要なカギとなる物質ではないかという期待が高まり、将来的にはイリシンの飲薬で運動しなくても運動をしたのと同様な脂肪燃焼効果が実現できるのではないかと期待もされていた。

 しかしながら、最近、イリシンの測定法そのものに誤りがあることが発見され、170余りの論文が出されているが、今までのデータは全て信用がならないことが分かってきた。

  米国デューク大学の研究チームは、ネイチャーの姉妹紙『サイエンティフィックレポート』に掲載した論文で、2012年のハーバード大のスピーゲルマン教授らの論文に真っ向から反論した。研究を率いた生化学者のエリクソン教授は「ハーバード大学の研究チームの論文は、イリシンを検出する方法が間違っていた」と説明した。また英国キングスカレッジロンドン大学のシステム生物学のティモンズ教授も学術誌『サイエンス』とのインタビューで、「イリシンが人間にpositiveな役割をするというデータは存在しない」と話した。

  結局、結論は血中のイリシンを測る際に用いられたイリシンの抗体が実はイリシンを認識しないで、ごく少量紛れ込んでいたタンパク質を認識していることがわかった。つまり運動によって上昇するとしていたイリシンは実はイリシンではなかったということになり、今までのデータは全部信用できないとされた。またその上、人にはそもそもイリシンは存在しないか、したとしてもごくわずかであることも分かってきた。

  イリシンを研究してきた多くの研究者の無駄な努力、ベンチャーキャピタルの投資の大損、あまり笑えない話である。
 昔から夢の癌特効薬としてセンセーショナルに出現し、すぐに立ち消えてしまった例は数多くある。うまい話はお金の儲け話だけではなく科学の社会にも潜んでいて、乗ると大きな痛手となることがある。

  あまりにも有名になった贋作・捏造の例として世間を騒がし犠牲者も出したSTAP細胞がある。最近、漸くSTAP細胞の検証が終わってその結果が最新のNatureに掲載された。
STAP revisited. 525,426 (2015)
This week, Nature revisits one of the most controversial scientific episodes in recent years: the now-retracted discovery of a claimed new way to reprogram cells, stimulus-triggered acqui¬sition of pluripotency (STAP). On our website we publish two Brief Communications Arising (BCAs) that relate to the retraction.
Nature 525, E4–E5 (24 September 2015):STAP cells are derived from ES cellsとNature 525, E6-E9(24 September 2015):Failure to replicate the STAP cell phenomenonの2報が出され、STAP細胞は全てES細胞の混入によるものだと結論づけられた。この混入が意図的なものか、偶然なのかは明らかにしていない。何れにしても非常に多くの研究者や企業がこの不正(捏造?)論文に振り回され、大迷惑を被った。

 イリシンの発見の誤りは意図的になされたのではないにしても、有名な論文不正事件として、ベル研究所のヘンドリック シェーンによる常温で超電導を観測したという常温超電導事件(シェーン事件)や ソウル大学黄禹錫教授のES細胞論文捏造事件やSTAP細胞事件と、捏造、不正は止まるところを知らない。「なぜ人はすぐにバレるとわかっていて捏造したり、嘘をついたりするのであろうか?」これは科学研究の問題だけに限らず、東芝の虚偽の経理発表、ごくごく最近のフォルックスワーゲンのデイージェルエンジンの排気偽装と超一流の世界的企業でも行われた。企業内でのプレッシャーが強すぎて、一時的にも逃れようとした結果なのであろうか?企業間、個人間の競争の激しさのあまり、逃れようとしてなされたのだとしたら、あまりにも悲しい虚栄に満ちた社会ではないか。
 ほとんど個人が主体となる研究論文の不正にしても組織の関与する企業の不正にしても、いつもポストや研究費の獲得にあくせくしているストレスフルな研究者や、上司からいつも厳しいノルマや課題を突きつけられているストレスのかかった企業人と、生き残るのにタフな社会が産み出した副産物なのであろうか?ただストレスが大きいからと言って不正することは絶対に許されることではないが。

最新の基礎医学、生物学ジャーナル状況

2015年07月21日 15:55

インパクトファクターから見た生命科学の傾向

 2014年のインパクトファクターが発表された。近年、新しいジャーナルの発行が相次ぎ、ジャーナル間の競争が激しくなっている。競争を生き抜く鍵はインパクトファクターを上げることにある。そこで必死になってインパクトファクターをあげようとするのだが、歴史のない新興雑誌はそうもいかない。NatureやCellの姉妹紙は出せばほぼ高いインパクトファクターを獲得し、成功している。また学会で出版している古くからあるジャーナルが軒並み苦戦しているのも目立つ。

 基礎医学、生物学での上位ジャーナルは相変わらずNature, ScienceとCellが占めた。NatureのIFは41.456で他の2誌、Science (IF:33.611)及びCell (IF:32.242)と水をあけてtopを独走するようになった。続いてIF 20以上はNat Methods (32.072), Nat Gent (29.352), Nat Med (27.363), Can Cell (23.523), Cell Stem Cell (22.268), Immunity (21.561), Nat Immunol (20.004)と全てNatureとCellの姉妹紙が独占した。さらにNat Cell Biol (19.679)と続いて、ここで初めてNature, Cellの姉妹紙以外のアメリカの癌学会が新たに出したジャーナル、Can DiscoveryがIF:19.453に登場してきた。その後もCell Metabo (17.565), Nat Neurosci (16.095), Neuron (15.054)とIF 15以上をNature, Cellの姉妹誌が独占状態。

 IF:15以下でやっと他のジャーナルが出始め、Circulation (14.43), PLOS Med (14.429), System Biol (14.387), Mol Cell (14.018), Nat Struc Mol Biol (13.309), J Clin Invest (13.215), Nat Chem Biol (12.996), JNCI (12.583), J Exp Med (12.515), Cell Res (12.413)と続き、最近の流行を反映してAuthophagy(11.753), そしてNat Commun (11.47), Am J Human Genet (10.931), Mol System Biol (10.872), Genome Biol (10.798)となる。Gene Devは随分ランクを落とし、今やIF:10.798となった。Blood (10.452), EMBO J(10.434)はかろうじて10点内に止まった。

 一方、J Cell Biol (9.708)は10点以上に返り咲けなかった。Dev CellはCellの姉妹紙といえどIF:9.70と、いつの間にか10点以下に落ちてきた。昔の名門誌Proc Natl Acad SciもIF:9.674と10点に届かない。
Nat Protoc (9.673), Curre Biol (9.571), PLOS Biol (9.343), Can Res (9.329), Nucleic Acid Res (9.112), EMBO Rep (9.055)と続く。アメリカの癌学会誌はCan Discovery(19.453)とCan Res(9.329)とも高いIFを示している。またCellから出されているCan Cell(23.523)も非常に高いIFを示し、がん関係のジャーナルのIFの高さが際立つ。 さらに、Oncogene (8.467), Cell Report (8.358), Cell Death Differ (8.184)が8点台。これから下は多くの専門誌がひしめき合って、全てを記述するのは大変なので、顔なじみのジャーナルに限って紹介する。

  PLOS Pathog (7.562), PLOS Genet (7.528), J Pathol (7.42)), Mol Cell Proteom (6.564), Stem Cell (6.523), Development (6.462), J Neurosci (6.344), Sci Signal (6.279), Genet (5.963), Struct (5.618), J Cell Sci (5.432), BBA Mol Biol Lipid (5.162), FASEB J (5.43), BBA Mol Cell Res (5.019), J Immunol (4.922), Mol Cell Biol (4.777)と続き、 昔の生化学雑誌の雄、J Biol Chem (4.573)はついに5以上になれず。アメリカの細胞生物学会誌のMol Biol Cellは IF:4.466とJCB (9.708)に比べかなり低い。J Virology (4.439), J Lipid Res (4.421)と続き。 Biochem J. (4.396)は一時JBCより上にあったがまた抜き返された。さらにCell Signal (4.315), FEBS J (4.001), Metabolomics (3.855), Proteomics (3.807). Cell Commun Signal (3.378), PLOS ONE (3.234), FEBS Lett (3.169), BBRC (2.297)となる。.

 日本で出しているジャーナルではCancer SciがIF:3.523でトップを維持している。ついでGene Cell (2.805), J Biochem (2.582)で最下位はCell Struc Funct (1.684)と1点台になってきた。
ここ近年の傾向は昔からある名門雑誌の凋落ぶりが目立つ。JBCは1999年には7.666であったのに、今や4.573となってしまった。一方成功したジャーナルとして御三誌の中でもNatureがあげられる。Nat, Cell, Sciと比較すると1999年にはCellがダントツでIF:36.242, ついでNature IF:29.491 でScienceは IF:24.595, であった。それが2004年にはCell (28.389), Nature (32.182), Science (31.853)とNatureがIFをどんどん伸ばし始め2012年、Cell (31.957), Nature (38.597), Science (31.027)となり、2014年にはNatureは40点を突破して、41.415, 一方Cellは32.242でScience は33.611となり、Natureの独走状態に入った。

 何がこの差を生んだのか?Natureがデータの綺麗さや信用性を要求するのは当然であるが内容が面白い生命現象を扱っていて、originalityの高いことが必須である。一方、Cellも内容のユニークさ面白さも必要であるが、何よりもデータの信頼性を要求し、細かい点に至るまでの実証を要求する。ともすれば内容はそれほどでもないのに、がっちりと固めた膨大なデータがあれば掲載されている傾向がある。

また一方の成功例として、印刷物をなくし、on-line ジャーナルに徹したPLOSグループがある。 PLOSグループのジャーナルを見ると、PLOS Med (18.649)を先頭に、PLOS Biol (9.343), PLOS Gent (7.528), PLOS Pathog (7.562),PLOS One (3.234)としっかりとした地位を築きつつある。
日本のジャーナルはなかなか世界に食い込めなく、悪戦苦闘している。せめてCan Sci (3.525)くらいまでGene Cellや JBは上がってもらいたいものである。

老化を抑制する薬剤が現実に?

2015年07月06日 13:20

夢の薬、anti-aging薬が臨床試験にかかる

ありとあらゆる高等生物は歳を取り、老化する。有名な話では秦の始皇帝は不老不死の薬を求めて、徐福に蓬莱の国へ行き仙人を連れてくるように命じたが、結局そのような薬を見つけることはできなかった。
それから2000年以上経った今、ついに老化を抑制する薬が臨床試験にかけられ、効果を人で確認するという夢のプロジェクトがアメリカで始まろうとしている(下記NatureのNews)。
その候補薬は抗糖尿薬としてすでに使われているメトフォルミン(Metformin)。メトフォルミンは最近癌にも効果があるとして見直されていた薬だ。すでに薬剤として承認されている薬なので、臨床試験も早く進み、結論が出るにはそんなに時間はかからないであろう。

 Anti-ageing pill pushed as bona fide drug
Regulators asked to consider ageing a treatable condition
Erika Check Hayden
Nature 522, 265-266 (2015)

 この記事の内容を紹介する。
 「医師や研究者らは老化に関係して生じる病気を遅らせる合法的な薬剤の開発のための規制緩和と研究助成を求めている。薬剤による治療法は政府の承認を得るだけの生理学的根拠がある。そして老化研究者は言う「共通する老化に伴って起こる病気のプロセスを遅らせることにより、人の健康寿命を延ばすことができる」と。
6月24日、老化研究者は米国のUS Food and Drug Administration (FDA)の官僚に会い、この治療法が価値があることを示すための臨床試験を提案した。
現在の老化に関係する病気の治療は、ある病気を他の病気に置き換えているだけだとAlbert Einstein College of Medicineの医師Nir Barzilaiは言う。それはある老化関連の病気を治療した患者がしばしば他の病気で比較的早く亡くなることを指す。我々が示したいのは、もし老化を遅らせることができればそれが老化による病気を遅らせる最良の方法だということだ。

BarzilaiらはTargeting Aging with Metformin (TAME)という臨床研究の計画を提出した。彼らはすでにがん、心臓病や認知症を患っている何千人もにMetforminを投与しようと計画している。しかしすでにMetforminは糖尿病治療に使われているから、II型の糖尿病を患っている患者には適応できない。

6月24日、老化研究者はFDAの官僚にこの試行が成功したなら、その薬剤が老化を遅らせるのに有効であると証明できると話した。それは老化が薬剤で治療できる病気であることを示す前例になるであろうということだ。

5月27日のUS National Institute on Aging (NIA)での会合で、FDA Center for Drug Evaluation and Research の副所長のRobert Templeは我々のセンターはその考え方に好意的であると表明した。

老化研究は過去何十年にわたって、様々な抵抗にぶち当たってきた。寿命を伸ばそうとする薬剤の開発はいつも挫折した。しかしTAME試行の企画者たちは動物実験によりある薬剤や生活習慣の改善により寿命を延ばすことができたため、いまや状況は一転し、改善していると考えている。

例えば、NIAのスポンサーによる介入テストプログラムでは、3箇所の研究者たちが組織的に共同して様々に老化抑制を試し、信用性、再現性を、様々な種のマウスで確かめてきた。それらはカロリー制限や移植免疫抑制剤のrapamysinを摂取することによる試行を含んでいる。

さらに製薬会社のNovartisがrapamycinに似た薬剤を摂取することにより、インフルエンザワクチンへの免疫反応を強化できることを昨年の12月に発表している。細胞増殖に関わるpath wayに作用するrapamycinはいまや老化を抑制する最も有望な薬剤の一つだと見られている、しかし長い間それは免疫系を抑制するとされてきた。

Safety first
TAME テストは肝臓でのグルコースの産生を抑制し、インスリンへの感受性を増加させるMetforminを用いてなされる。この薬剤は60年以上使用され、安全で健康寿命を伸ばし、線虫やある種のマウスの寿命を延ばす。データでは心臓病、がん、認知症を遅らせ、糖尿病による死亡を抑制する。臨床試験は15のセンターで70-80歳の3000人で開始される。5−7年要し、50億ドルかかる。
老犬にrapamycinの投与を行っているWashington UniversityのMatt KaeberleiはBarzilaiの試行の概念は正しいという。他の薬剤が動物での老化の抑制により効果があるとしてもmetforminでの長い実験経験と老化過程でのインパクトを示すデータがすでにあるので、まず最初の臨床試験はmetforminでやるのがいいであろう」 
とまずはmetforminでの臨床研究が一番ふさわしいと結論付けている。

 近年老化を薬剤で遅らせようとする試みが盛んに行われ、サルやマウスや線虫では効果が見られている。著明なのが老化に伴って生じる病気、がんや動脈硬化、認知症の抑制だ。Ant-aging drugの候補としてrapamycin, metforminやrevesterolなどがある。
Rapamycinは免疫抑制剤として見つけられてきたが近年老化を抑制するとして脚光を浴びている。そのターゲットがmTOR(mammalian target of rapamycin)だ。mTORは細胞増殖やエネルギー調節で中心的役割を果たすserine/threonine kinaseで特にインスリンシグナルで重要な役割を果たす。インスリンや増殖因子の刺激でPI 3-kinaseが活性化され、生じたPIP3によりAktというserine/threonine kinaseの活性化が起こり、さらにmTORが活性化される。このPI3K/Akt/mTOR経路は細胞の増殖の制御で重要であるばかりでなく、エネルギー代謝でも重要な役割を果たす。特に老化調節では糖代謝(エネルギー代謝)が重要でmTORはエネルギー代謝のhubとも言える。栄養状態がいいとmTORは活性化され、過剰のエネルギーを産生し細胞増殖や細胞死の抑制が起こる。一方、飢餓状態になるとmTORは抑制され、エネルギー産生の抑制、細胞増殖の抑制が起こる。
RapamycinはmTORを抑制してエネルギー産生を抑え、栄養欠乏状態を作る。Calorie restriction(カロリー制限)がanti-agingに作用するのも同じ理由による。
またMetforminはmTORを阻害するAMP kinase(AMP dependentのkinase)の活性化作用があり、mTOR阻害を介して、抗老化作用を持つ。AMP kinaseの下流には脂質合成に重要な酵素もあり、これらを抑制してコレステロールや中性脂質合成も抑制する。
糖などの栄養物は最終的にATPに変えられATPを消費することでエネルギーに変えられる。栄養状態がいいとATPは過度に産生される傾向にあり、AMP kinaseは抑制されている。しかし飢餓状態になりATPが枯渇しAMPが増えると当然、栄養が足りないのでエネルギーの浪費を抑制する方向に向かう。その機序はAMPの増加を察知してAMP-kinaseが活性化されmTORが抑制され代謝が抑制される。その結果細胞増殖が抑制され癌化も防ぐ。Anti-agingの薬剤はエネルギー代謝を抑制し、カローリー制限と同じ状態にすることでその効果を発揮する。

Ebola終わってMERS始まる

2015年06月04日 13:34

ウイルスの逆襲

どうにかエボラ出血熱の流行が食い止められたかと思ったら、今度はMERSの流行。韓国では2名が死亡し、1600人以上が隔離され、すでに3次感染も生じているという。いつ日本に入ってきてもおかしくない状況である。

 MERS (Middle East respiratory syndrome coronavirus)の名前の通り、中東で発生した中東呼吸器症候群である。MERSウイルスはSARSコロナウイルスに似たコロナウイルス(β型)で2012年9月にサウジアラビアで初めて発見された。その後、サウジアラビアのZak 氏がウイルスの分離に成功し、オランダのエラスマス メデイカル センターのFouchier氏に分析を依頼し、遺伝子配列が確定した。
肺炎を主症状としており死亡率は40-50%と非常に高い。本ウイルスは遺伝子解析から山コウモリが起源とされているが、中間宿主、感染方法は不明で、潜伏期は2.5-14日間とされる。中間宿主として疑われているのはひとこぶラクダで、唾液などの飛沫感染の疑いが濃厚。予防策としては石鹸による手洗い、マスクの装着、消毒などがあげられる。ウイルスは通常の消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムで死滅する。
治療法は確立してなく、ワクチンの製造も行われていない。感染した人は集中治療室で対症的な治療を受けることになる。症状は軽症から重症まで多様であるが多くの症例が重症肺炎を呈する。下痢を伴うことが多く、腎不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)などの合併症を伴っていた。一方、検査結果が陽性であるにかかわらず、無症状の人も報告されている。

人に感染するコロナウイルスとしては4種類存在し、5歳頃までにほとんどの人が感染することが知られている。通常、鼻風邪、上気道炎を引き起こすだけの普通の風邪である。
しかし2002年に中国の広東省で発生した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)は世界中に蔓延し、8098人に感染して774人が亡くなったことから認識が変化する。MERSはSARSに比べ感染力はそれ程強力ではない。患者と接触するなどの濃厚感染で発病し、SARSやインフルエンザのような空気感染はしないらしい。しかしSARSとMERSは重症の肺炎を引き起こす点において似ている。心臓病や糖尿病を持っている人で重症化することや、子供では軽症であることも似ている。

MERS-CoVのゲノムサイズは30.1kbであり、SARS-CoVの29.7kbと同等の長さである。コロナウイルスはα、β、γ、δのグループに分類されている。MERS-CoVはSARS-CoVと同じくβコロナウイルスに属し、さらにそのCグループに分類されている。MERS-CoVはORF1a, 1b, S, E, M, Nのコロナウイルスに一般的なタンパク質のほか、SとEタンパク質遺伝子の間にORF3, ORF4a, 4b, ORF5の4つ、Nタンパク質遺伝子より3‘側にORF8と合計5個のアクセサリータンパク質を持つ。
新型コロナウイルスは2種のコウモリコロナウイルスであるタケコウモリとアブラコウモリとの相同性が高い。MERS-CoVはこれらのコウモリとRNAポリメラーゼ配列において90-92%のアミノ酸相同性を示すが、ウイルスの侵入を担うSタンパク質におけるアミノ酸の相同性は64-67%程度であり、SARS-CoVと同様にコウモリコロナウイルス間での遺伝子組み換えによって誕生した可能性が高い。SARS-CoVはミドリざる由来のVeroおよびVeroE6細胞に感受性を示し、アンジオテンシン転換酵素2(ACE2)がウイルス受容体である。一方、MERS-CoVはSARS-CoV同様にVero細胞に感受性を示すほか、アカゲザル由来のLLC-Mk2細胞にも感受性を示す。ウイルス受容体はDipeptidyl Peptidase-4(DPP-4)であり、様々な細胞で発現が確認されている。

SARS-CoVやMERS-CoVは標的とする細胞に侵入する際、その表面上に発現している糖タンパク質が受容体と結合し、ウイルスと宿主の細胞膜の融合を促進し細胞内へと侵入する。しかしウイルスの糖タンパク質は活性のない前駆体として合成されるので活性化には宿主側のプロテアーゼによる限定分解が必要である。それゆえ、糖タンパク質を分解するプロテアーゼの阻害剤がウイルス感染阻止に役立つと考えられる。
プロテアーゼの中でも肺胞上皮細胞特異的に発現している膜型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)がインフルエンザウイルスを活性化することが報告され、さらにSARSコロナウイルスや人コロナウイルスNL63も活性化されることがわかり、TMPRSS2が呼吸器ウイルス活性化の主役因子であると考えられるようになった。

そこでTMPRSS2の阻害剤が探された結果、セリンプロテアーゼ阻害剤のカモスタットが見出された。カモスタットはTMPRSS2活性を特異的に阻害し、SARS-CoVとMERS-CoVの細胞侵入を阻止する。もともとカモスタット(商品名フォイパン)はトリプシン阻害剤として開発され、すでに膵炎や逆流性食道炎の治療のための飲み薬として使われているので、MERS患者へ投与して有効かどうかを見極めるには時間がかからないであろう。

いずれにしても今の所、手洗い、うがい、マスク着用とインフルエンザ予防と同じような対応をとるしかない。
参考文献:中東呼吸器症候群コロナウイルス感染症:松山州徳、モダンメデイア 60, 137-142 (2014)


最近の記事


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。